1.タダほど危ないものはない
先日、某局のアナウンサーが個人から1.7億円もの金銭の無利息貸与と法人名義の高級車を無償で借りていたというニュースが報じられました。これについて賛否や責任云々という話はここではするつもりはありませんが、こういった話は社会的・道義的な責任を負うリスクはもちろんなのですが、下記のように様々な課税リスクが孕んでいます。
とうわけで、今回の事案において双方の当事者における課税リスクについて検討してみましょう。
≪借手のリスク≫
・1.7億円が贈与として認定された場合、贈与税(ざっと計算して9,000万円近く!!になりました。私の残りの人生かけても支払うことはできないでしょう、、怖)
・1.7億円が借入であった場合、無金利と実質金利との差額を認定されて贈与税課税(実質金利や貸付期間がいくらかによりますが、上の贈与ほどではないです)
・自動車の実質賃借料等との差額を認定されて贈与税課税(車体価格が相当高額なので、結構な税額になります。)
≪貸手のリスク≫
・1.7億円の原資が実質的に法人から出ていた場合、寄付金課税
・1.7億円の原資が個人のポケットマネーで貸付金と認定された場合、上記認定利息と同額を雑所得課税
・自動車の減価償却費を損金計上していた場合、過去の損金算入額が否認される
・自動車購入時に支払っている消費税が否認される
(専門家でないので、間違ってたり、他に考えられるものがあればご指摘ください。)
「タダで何かをする・してもらう」本来なら”嬉しい”はずのこのやり取りも税務ではこれだけのリスクが考えられます、私がもし当事者の立場だったらもう耐えられません。(特に中小企業の)経営者の方や実務に従事されている方はどうぞご留意ください。
今回の事案は経理や財務セクションに従事される方で経済的利益と使途不明金に敏感な方は同じ思いで見られたのではないでしょうか?本ブログは経理の視点に立って書いてますので、借手・貸手どちらかといえば貸手のリスクについて検討すべきかなと思いますが、出てくる金額が多額で事案が事案(?)なので、詳細書くのは差し控えたいと思います(ビビってます)。下記にて経済的利益についてちょっと触れて、今日はちょっと早めに本記事を締めたいと思います。
2.経済的利益がもたらす”リスク”
まず、経済的利益について簡単に説明すると、通常「利益」というと「お金」的なものを連想されるかもしれませんが、税金の世界で使われる経済的利益というのは当事者間でお金が移転してなくても実質的な経済的メリットが移転している状態であれば、そこでは利益が発生していて結果課税の対象となるという考え方です。
今回の事案に置き換えますと、銀行で1.7億円を借りたら本来かかるはずの金利が0円だったことやレンタカー屋さんで同じ高級車を借りたときに払うはずのレンタル料が0円だったことなどがこれに該当します。
実際の市場価格と0円の差額は実質的には貸手が借手にお金をあげていることと同じこれが経済的利益の考え方です。さらに今回は金額が無視できないレベルだったので課税リスクとして顕在化しています。
通常はスルーしても、税理士さんや監査人の会計監査などでチェックが入るので大丈夫なんですが、今回はそうしたチェックも通過してしまった(?)ケースのようです。
経済的利益の論点は当事者が誰であるか(個人・法人・従業員・役員etc.)、対象の税目は何か(所得税・法人税・贈与税etc.)など場面によって形を変えます。経理・財務に携わる方は経済的利益の考え方はコンプライアンス上重要な論点なので、浅くて良いので書籍やWEBで押さえられることをお勧めします。